従業員の資産形成支援など、企業が従業員の幸福を目指す上で、心身の健康のみならず、経済的な安定を支援する取組みは「ファイナンシャル・ウェルネス」と呼ばれ、企業が取り組むべき人的資本経営の重要な柱として、今、注目されています。
Z世代(1990年代後半〜2010年頃に生まれた世代)と呼ばれる学生の関心事項にも、その傾向が顕著に表れています。まず、学生による企業選択のポイントとしては、「安定」を求める傾向にあります。
学生による企業選択のポイント
(出所)HUMAN CAPITAL サボネット powerd by マイナビ「2023年卒学生に調査!企業選びの本音に迫る|学生にとっての「安心・安定」「成長環境」とは?」より金融庁作成
縦軸:ポイント、横軸:割合 | 03年卒 | 04年卒 | 05年卒 | 06年卒 | 07年卒 | 08年卒 | 09年卒 | 10年卒 | 11年卒 | 12年卒 | 13年卒 | 14年卒 | 15年卒 | 16年卒 | 17年卒 | 18年卒 | 19年卒 | 20年卒 | 21年卒 | 22年卒 | 23年卒 |
安定している会社 | 19.6% | 18.8% | 18.6% | 17.8% | 18.4% | 20.7% | 21.3% | 26.0% | 23.0% | 23.3% | 19.4% | 22.1% | 27.3% | 26.3% | 28.7% | 30.7% | 33.0% | 39.6% | 38.3% | 42.8% | 43.9% |
自分のやりたい仕事(職種)ができる会社 | 46.1% | 43.4% | 42.9% | 42.9% | 41.8% | 38.9% | 43.1% | 39.1% | 43.5% | 43.3% | 44.5% | 42.6% | 40.3% | 40.2% | 38.4% | 38.1% | 38.1% | 35.7% | 35.9% | 34.6% | 32.8% |
そして、Z世代と呼ばれる学生が、企業に安定性を感じるポイントとしては、「福利厚生が充実している」 に次いで「安心して働ける環境である」を挙げる意見が多く聞かれます。これを紐解くと、従業員が安心して長く働きたいと思える成長環境を企業が与えられているのか、という点が重要になってきます。
学生が企業に安定性を感じるポイント
(出所)マイナビ2023年卒大学生活動実態調査(3月)より金融庁作成
ポイント | 割合 |
福利厚生が充実している | 53.3% |
安心して働ける環境である | 46.6% |
売上高 | 37.4% |
今後成長が見込まれる業界・企業である | 36.0% |
業界大手である | 35.5% |
離職率や平均勤続年数 | 35.4% |
社会の変化に対応できている | 33.3% |
知名度がある | 31.7% |
創業年数 | 30.2% |
上場企業であるかどうか | 27.2% |
従業員数 | 23.9% |
資本金 | 19.6% |
多角的に事業を展開している | 18.3% |
取引先に大手・有名企業がある | 16.7% |
本社所在地 | 14.7% |
グローバル展開している | 12.0% |
記事や番組、CM等メディアでの露出がある | 6.8% |
株価 | 6.7% |
その他 | 2.0% |
そこで、Z世代と呼ばれる学生が企業や職場を選ぶ際に用意してくれたら良いと思う研修に関する金融庁のアンケート調査を見ると、「資産形成・金融リテラシー研修」への関心度が高く、それを企業が積極的に導入している場合には、学生の志望度が高まることが示されています。企業による従業員向け「資産形成・金融リテラシー研修」の実施など、職域教育の積極的展開は、従業員の新規採用やリテンションの強化に寄与し得ることがわかります。
企業や職場を選ぶ際、用意してくれたらいいと思う研修は次のうち何ですか(複数回答可)
「資産形成や金融リテラシー研修」について、企業が、こうした研修を積極的に導入している場合、あなたの志望度合いはどの程度変わりますか
(出所)2023年11月〜12月に金融庁が行った大学生向け授業でのアンケート結果及び2023年9月〜2024年2月に金融経済教育推進会議が行った大学連携講座でのアンケートより金融庁作成
企業や職場を選ぶ際、用意してくれたらいいと思う研修は次のうち何ですか(複数回答可)
研修 | 人 |
1:資産形成・金融リテラシー研修 | 387 |
2:健康・メンタルヘルス(こころの健康)研修 | 256 |
3:ITスキル(Excel、PPTXなど)研修 | 324 |
4:ビジネスコミュニケーション研修 | 329 |
5:キャリアデザイン研修 | 250 |
6:就職活動予定はない | 97 |
「資産形成や金融リテラシー研修」について、企業が、こうした研修を積極的に導入している場合、あなたの志望度合いはどの程度変わりますか
程度 | 割合 |
大きく高まる | 25.5% |
高まる | 53.6% |
あまり変わらない | 19.3% |
変わらない | 1.6% |
確定拠出年金法では、企業型確定拠出年金(企業型DC)を実施する事業主に対して、加入者等の運用の指図に資するよう、加入者等に継続投資教育を行うことを努力義務として課されています。しかしながら、全体の8割の事業主は継続投資教育を実施したことがあると回答している一方、継続的な教育を受けたと回答した加入者は1割程度に過ぎず、なかなか職場での教育が進んでいないことがわかります。
企業型DCの継続投資教育の実施状況
(企業型DCの事業主を対象とする調査)
「実施したことがある」と回答したことのある者のうち、70.8%の企業は直近1年以内に教育を実施。
企業型DCの投資教育の実施状況
(企業型DCの加入者を対象とする調査)
(出所)企業年金連合会「2021(令和3)年度 確定拠出年金実態調査結果(概要)(2023年3月公表)」、年金シニアプラン総合研究機構「厚生年金の加入者における企業型確定拠出年金とiDeCoに関する調査(2021年5月調査)(2022年2月公表)」
企業型DCの継続投資教育の実施状況
(企業型DCの事業主を対象とする調査)
実施状況 | 割合 |
実施したことがある | 81.5% |
現在計画中 | 5.3% |
実施したことはない | 13.2% |
企業型DCの投資教育の実施状況
(企業型DCの加入者を対象とする調査
実施状況 | 割合 |
継続的に何回か受けた | 11.9% |
加入時のみ受けた | 45.8% |
実施されていたが受講しなかった | 3.8% |
実施されていない | 9.7% |
分からない | 28.7% |
企業型DCを実施する企業の6割は、継続教育に関する悩みを抱えています。具体的には、「無関心層に対する効果的な方法が分からない」、「他の業務と兼務しているため、継続教育に割く時間が少ない」等の課題が挙げられています。
企業担当者のDC制度に関する悩み(N=1,618)
悩み | 割合 |
継続教育に関する事項 | 59.0% |
加入者の理解不足 | 48.3% |
加入者の無関心 | 48.0% |
法改正への対応 | 41.4% |
事務の煩雑さ | 28.9% |
継続教育実施する際の課題・悩み(N=1,312)
悩み | 割合 |
無関心層に対する効果的な方法がわからない | 45.4% |
他の業務と兼務しているため、継続教育に割く時間が少ない | 35.3% |
社員感の理解等のばらつきを少なくする効果的な方法が分からない | 32.1% |
継続教育自体をどのような内容・方法で実施するか | 29.6% |
継続教育に対する社員の反応、参加率の少なさ | 26.4% |
(出所)確定拠出年金教育協会「企業型確定拠出年金(DC)」担当者の意識調査2022全体報告書(2023年1月公表)」、確定拠出年金・調査広報研究所「第19回企業型確定拠出年金制度に関する調査(2022年8月公表)」より金融庁作成
令和5年3月期から、人的資本に関する開示が有価証券報告書でも義務付けられ、資産形成支援など、ファイナンシャル・ウェルネスに関する取組みについての積極的な開示も期待されています。J-FLECでは、企業へ講師を派遣し、従業員向けの研修を無料で行っています。また、「社会人として身に付けておきたいお金の話」など、社会人向けのイベント・セミナーも多数開催しています。
中立公正なJ-FLEC認定アドバイザーが、企業の皆様をご支援します。是非ご活用ください。